脱ハンコと不動産 - 森島不動産コンサルタンツ/森島義博
ハンコ?大好きです!
さまざまな印材にいろいろな字体で緻密に刻印されたハンコ自体も好きですし、上質な朱肉で押された美しい印影を見るのも好きです。
不動産の仲介の仕事をしていた頃、多くの取引と同時に売買契約書などに押されるさまざまな印影を見て、ハンコと人柄の間になんらかの関係があるのではないかと感じて印相の勉強をしてみたこともあります。実印にしても、小さなハンコ、大きなハンコ、それらの字体の違いによって取引交渉の姿勢が違ったり、いわゆる悪相と言われる印鑑で不動産の売買を行う人は、どこか慎重さとか誠実さに欠けているような気がしたものです。
ハンコの押し方も人それぞれ。ある人は心の中で「天心、印心」と念じながら押すのだと言った人もいました。いずれにしても取引や契約の場でハンコを押すことはこれで約束が確実になり、もう取り返しがつかないという覚悟が発生する最後の山場と言う象徴的な場面でしょう。
ところが最近、政府は行政手続きの簡素化を目指し、デジタル化も含めた行政改革の一環として「脱ハンコ」を言い始めました。
「脱ハンコ」とはその名の通り、書面では無く電子契約サービスを導入することでハンコを不要にすることだそうです。つまり紙を使用しないこと、したがってハンコを押す場所がなくなるということになります。
不動産業界は紙と電話、ファックスを使った手続きが非常に多く、それらの真正性をハンコが確保してきた業界であると言えます。正確な情報は地元の不動産屋に足を運ばなければ得られないと言った日本では長く当たり前とされてきたこの常識を変えるためにも紙は邪魔なのでしょう。
政府は不動産売買や賃貸契約の際に交付する物件の重要事項説明に関する書面を電子化し、メールで送れるようにする方針を固めました。本年4月の改正民法には「契約方式の自由」が明記されておりますので、契約の成立に書面は必ずしも必要ではありません。つまり、「電子契約は法的に問題が無い」ということになります。
しかし、借地借家法は、書面での契約を求めていますし、本人の署名又は押印があるものについては、真正に成立したものと推定されると民事訴訟法第228条に規定されています。不動産登記など実印が必要な手続きは、今後も当分は存続するとみられていますが、脱ハンコの動きは徐々に不動産の様々な場面に浸透してくるのでしょう。それには国民のハンコに関する文化的な承認が必要でしょうが。
将来、不動産におけるハンコは、お寺などでいただく御朱印のような存在になるのでしょうか。
森島不動産コンサルタンツ
不動産鑑定士 森島 義博
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)
TAGS: 不動産業界・契約方式の自由・森島不動産コンサルタンツ・森島義博・脱ハンコ・電子契約サービス | 2020年11月20日