不動産の減損処理
不動産(固定資産)の減損とは
わが国の会計基準で長く採られてきた取得原価主義は、1990年代半ば以降のデフレ経済下では、価格や収益性が著しく低下した不動産(固定資産)の価値を過大に表示することになり、結果的に損失を将来に繰り延べることにもなりました。こうした日本独自の会計基準に基づいた財務諸表では投資家の信頼性を損ねるため、グローバルスタンダードに合わせた会計基準への整備がされ、減損会計が導入されるに至りました。
不動産(固定資産)の減損とは、不動産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態のことをいい、そのような場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理です。減損損失は、原則として特別損失とされます。
鑑定評価の位置づけ
不動産(固定資産)の減損会計では、減損損失の測定における「正味売却価額」を求める場合等に、不動産鑑定評価基準に基づいて算定することが期待されています。
従来は、会計が「取得原価」を帳簿価額に計上し、鑑定評価が「時価」を追求するという点で、資産評価という面ではお互いに相容れないところがありましたが、減損会計の導入を契機として、鑑定評価は避けて通ることができない手続きになっています。
現状把握を含む全プロセスに対応
弊社では、ご所有不動産の現状を把握するための整理・調査業務や、「正味売却価額」に関する価格調査報告書または鑑定評価書、また、「回収可能額」の算定における「正味売却価額」または「使用価値」を求めるための不動産鑑定評価書のご用命を承っております。広域にわたる多数の不動産の場合でも提携事務所のネットワークを活用して迅速に対応できますので、お気軽にご相談ください。
減損会計適用の流れ
1.資産のグルーピング
複数の資産が一体となって独立したキャッシュ・フローを生み出す場合、減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定に際して、合理的な範囲で資産のグルーピングを行なう必要があります。合理的な範囲ということですから、保有する全ての固定資産について時価等の算出をする必要はなく、減損の兆候が生じているものをピックアップします。
2.減損の兆候
減損の兆候とは、資産又は資産グループの収益性が低下したことにより、投資額を回収できない可能性を示す事象が発生していることをいいます。減損の兆候の判定は、基本的には、企業内部の情報や企業外部の要因に関する情報等(経営環境に関する情報、資産の市場価格に関する情報等)、通常の企業活動において実務的に入手可能な情報にも基づいて判定します。
3.減損損失の認識の判定
減損の兆候があると判断された場合、減損損失を認識するかどうかの判定を行ないます。
資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、減損損失を認識することになります。
4.減損損失の測定
減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とします。回収可能価額とは、正味売却価額(資産又は資産グループの時価から、処分費用見込額を控除した金額)又は使用価値(資産又は資産グループの継続的使用と使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値)のいずれか高い方の金額をいいます。
減損の兆候の例示
以下はあくまで例示であり、状況に応じ個々の企業が適切に判断する必要があります。
- ・おおむね過去2期、赤字が継続している事業に使用されている資産
- ・廃止又は再編成する予定の事業に使用されている資産
- ・当初予定よりも著しく早期に除却や売却等により処分することになった資産
- ・当初の予定又は現在とは異なる用途に転用された資産
- ・遊休状態になっており、将来の用途が決まっていない資産
- ・稼働率が著しく低下し、回復する見込みがない資産
- ・著しい陳腐化等の機能的減価が観察できる資産
- ・計画の中止や大幅な延期がされた建設仮勘定に係る資産
- ・市場環境や技術的環境が著しく悪化している事業に使用されている資産
- ・市場価格が帳簿価額よりも50%程度以上下落している資産
重要性がある不動産の正味売却価額の算定
正味売却価額を算出する際の不動産の時価を求めるに当たっては、「重要性が乏しい不動産」については、土地の公示価格や路線価などを市場価格とみなす代替的な手法が認められています。しかし、不動産に重要性がある場合には、「不動産鑑定評価基準」に基づいて原則的時価算定を行なうことになります。