証券化対象不動産
証券化対象不動産の評価におけるERの活用
わが国では、平成13年9月に最初のJ-REIT(不動産投資信託)が東京証券取引所に上場され、金融商品として浸透が図られて来ました。それに伴い、組み入れられた不動産の評価結果が多数の投資家に影響を及ぼすようになったことから、平成19年に「不動産鑑定評価基準」等の改正が行なわれました。
その改正では、証券化対象不動産として鑑定評価を行なう場合の適用範囲、DCF法の適用過程の明確化や収益費用項目の統一等の項目に加え、「ERについての不動産鑑定士の主体的な活用」という項目が盛り込まれました。
ER専門家として密接な連携の必要性
証券化対象不動産の鑑定評価に当たっては、不動産鑑定士は依頼者に対しER(エンジニアリング・レポート)の提出を求め、その内容を分析・判断し、活用することになっています。改正「基準」では、鑑定評価に必要となる専門性の高い個別的要因として、遵法状況、修繕計画、有害物質(アスベスト等)に係わる建物環境、土壌汚染、地震リスク、耐震性、地下埋設物が挙げられ、これらの調査については提出されたERをそのまま活用したか、他の専門家へ調査依頼をしたかの別を鑑定評価書に記載することになっています。不動産鑑定士にとって、特に証券化対象不動産については、ERの内容を分析・判断できる高い専門能力が求められています。
しかしながら、文科系出身者が圧倒的多数を占める不動産鑑定士には、そもそも弁理士のように高度な技術専門性は必要とされておらず、また、マンション管理士のように建築・設備に関する一定の知識をも試験において必要とされなかったため、上記の各個別要因のどれをとってもその分析・判断は容易なことではありません。従って、改正「基準」の第3章第3節でも述べられているように、「ERを作成する者との密接な連携を図りつつ、常に自らのERに関する知識・理解を深めるための研鑽に努めなければならない。」ことは当然ですが、その範囲が広大で深遠なことを鑑みれば、ER専門家との多面的かつ「密接な連携」が最も大事なことと思われます。
ER専門家として密接な連携の必要性
弊社では、J-REITのほか、多くの私募ファンドに係る証券化対象不動産の鑑定評価を承っており、ER作成および統括に携わった経験のある不動産鑑定士が統括しています。ERは外部専門会社に委託しますが、鑑定評価との連携性を保ちつつ、より信頼性の高い証券化対象不動産の評価を行なっております。ERと鑑定評価書を一括発注した場合の迅速性メリットも考慮のうえ、是非ご用命ください。
ERにおける「修繕」等の概念について
建物は、竣工時から時間の経過と共に機能上・美観上の劣化が始まります。劣化のレベルが一定の性能水準以下になった時点で、使用上不都合を生じることが多くなります。外壁面のシーリング材が劣化して漏水が始まるなどした建物を、実用上支障のない状態まで維持保全することを「修繕」と呼びます。また、老朽化に伴う機能・美観の劣化を竣工時の性能水準・外観まで回復させることを「更新」と呼びます。劣化した扉や空調機を新しいものに取り替えることなどがこれに相当します。
一方、建物に対する要求は時代と共に変化して行きます。特に設備面では技術の進歩に伴い、従来の技術では難しいとされた機能も低コストで対応可能となってくる場合があります。新しい機能を有する建物が増えてきますと、従来のままの機能しか有さない建物は外観上・機能上の陳腐化が目立つことになり、周辺建物との競争にも支障が出てくるようになります。このような場合の対応策として新たに要求される平均的な性能水準まで機能向上を図ることを「改修」と呼びます。テナント誘致力強化のため、建物の耐震性の向上を図ることや、オフィスの空調システムを全体空調から個別空調に変えることなどがこれに相当します。
これらの関係を模式化したのが下図(修繕・更新・改修による建物竣工後の性能曲線イメージ)です。なお、ERで扱う「修繕」「更新」費用は、現状の機能、性能を維持していくために必要な範囲の費用として算出します。機能向上を図るために発生する「改修」費用は含まれません。
- 修繕・更新・改修による建物竣工後の性能曲線イメージ
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- 性能水準
- 施工時
- 時間
- エンジニアリング・レポートの修繕更新費用の算出対象
- 修繕
- 更新
- 改修
- 改修
- 要求される平均的な性能水準
- 建物の機能
- 施工時の性能水準
- 実質上支障のない状態
- 維持保全をしない場合の経年劣化
- 出典:
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- 「デューデリジェンスとエンジニアリングレポート」㈳建築・設備維持保全推進協会
- 「ファシリティマネジメントガイドブック」FM推進連絡協議会
- 「ビルディングLCビジネス百科」㈳建築・設備維持保全推進協会