相続財産の時価評価
相続や贈与時の財産評価の基準
相続税や贈与税の申告においては、課税対象となる財産の評価は、地上権、立木等の特別なものを除き、取得した時の「時価」に依ると定められています。(相続税法第22条)
国税庁では、納税者の手間や課税の公平性確保等の考慮から、具体的な評価方法を「財産評価基本通達」により各種の財産ごとに定めています。例えば、同通達で規定する路線価に基づいて納税者が土地の財産額を申告した場合には、相続税法第22条で定める「時価」による申告として認めています。
評価額と「時価」との乖離に注意
しかしながら、不動産(宅地)はそもそも個別性が強いため、時価が「財産評価基本通達」によって算出した評価額を下回ることがあります。そのため、場合によっては、鑑定評価により当該評価額と時価との乖離を検証し、適正な納税額を把握することをお勧めします。また、家屋は、固定資産税評価額で評価されますが、建築費が高騰していた時期に建築された建物では、時価と固定資産税評価額との間に大きな乖離が生じていることがあるため、同様な観点からの検証をお勧めします。
「財産評価基本通達」で評価減が認められている宅地の例
土地等の評価は、地目別に路線価方式、倍率方式および宅地比準方式で計算しますが、以下のとおり、「財産評価基本通達」で評価減が認められている宅地があります。
- 不整形地(評価通達20)
- 無道路地(評価通達20-2)
- 間口狭小な宅地(評価通達20-3)
- 崖地等を有する宅地(評価通達20-4)
- 容積率の異なる地域にわたる宅地(評価通達20-5)
- 私道として利用されている宅地(評価通達24)
- セットバックを必要とする宅地(評価通達24-6)
- 都市計画道路予定地の区域内にある宅地(評価通達24-7)
※「財産評価基本通達」6項では、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と規定されており、「評価通達」以外の評価も認めています。ただし、過去の判例等を参照すると、鑑定評価での「時価」がそのまま全て認められている訳ではありません。鑑定評価の適正性も問われる結果になっています。
鑑定評価における時価の検証
<宅地>
対象不動産(宅地)ごとに「財産評価基本通達」で予め規定されている個々の要因およびその減額割合が、広く市場で行なわれている取引価格と比較して適正なものであるかの検討を行ないます。実体社会においては、「評価通達」が想定した以上の個別性の強い不動産が見受けられることもあり、鑑定評価によって「時価」を導き出し、当局との交渉の第一歩とすることも必要です。
<建物>
家屋の相続税評価額は、固定資産税評価額で評価されます。固定資産税評価額は、評価時点における建物の建築価格、構造、延床面積、築年数等によって決められますが、新築の建物では、建築費の60%~70%が目安となっているようです。賃貸用アパート・マンション等の貸家の場合は、評価額は更に低くなり、固定資産税評価額の70%です。
バブル期に建築された建物の中には、建築費が高かったことに加え、その後のデフレ経済による建築費低下が適正に反映されずに固定資産税評価額が"高止まり"しているケースが見受けられます。ちなみに、財団法人建設物価調査会が公表している1992年(平成4年)および2011年(平成23年)1月の建物種類毎の建築費指数(工事原価/東京都)は、以下のとおりであり、この間の建築費の低下度合いを知ることができます。
事務所 (RC造/延2,000㎡) |
集合住宅 (S造/延800㎡) |
店舗 (S造/延1,500㎡) |
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1992年(平均) | 119.8 | 121.0 | 124.2 |
2000年(平均) | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
2011年1月 | 89.9 | 96.5 | 93.2 |
弊社では、ご依頼に基づき、建物の物理的調査(デューデリジェンス)を実施(※)し、建物・設備等の劣化の状況、遵法状況および中長期修繕計画等を踏まえた現実的な建物価値(時価)を判定します。「建物鑑定評価書」を発行致しますので、当局との交渉にお役立てください。
※外部の専門会社へ委託します。成果物である「エンジニアリング・レポート(ER)」は、建物鑑定評価書に添付します。