筆界特定制度-街なか再生へ向けて - 田中不動産鑑定/田中計機
大阪市内の旧来からの商店街の中には、再開発等どころか、一つの建物の建替えすら進まないケースがある。大阪は東京と比較してそもそも都市活力が弱いということもあろうが、「筆界」と「所有権界」が混乱していることも原因の一つである。筆界とは「公法上の境界」ともいわれ、不動産登記の手続きにより決定された一筆の土地の範囲を示す界のことで、所有者の意思では動かせない。一方、所有権界とは土地の所有権の及ぶ範囲の境を意味し、隣接所有者との話し合いで自由に決めることができるため、境界でもめるということが起こる。
そこで登場したのが平成18年より施行された「筆界特定制度」である。土地一筆ごとの境界を決定するため、登記名義人等の申請により、関係人等に資料提出等の機会を与え、外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえ、筆界特定登記官が筆界の位置を特定する。全国での本制度の利用は、平成23年2,326件、24年2,439件と、コンスタントな申請件数を保ち、一定のニーズが窺える。大阪市の場合、申請がなされてから平均約9ヶ月程度で筆界が特定されるようだ。
たとえば、鶴橋という街がある。鶴橋は在日コリアンの割合が多く、焼肉の街として有名である。地下鉄「鶴橋」駅に程近いエリアは、店舗等が密集し、老朽化した建物が多く、商店街を歩くと韓国語が飛び交う。当該地域で、店舗として利用されていた築50年程の建物について、所有者は高齢であることから商売を息子さんに継がす予定で、店舗併用住宅を建て替える計画を立てた。新築するに当たり土地の境界確定をするのだが、昔からの筆界を知る者はおらず、法務局備付けの公図は混乱した状況で、境界付近の構造物もはっきりしない。当然に隣地所有者の境界同意も得られなかったため、筆界特定申請が行われた。建物が密集している地域であったが、法務局は昔の分筆申告図等を根拠に、隣接地の店舗の中を通す筆界を示した。申請人は隣接土地と思っていた範囲まで自分の土地ということで驚愕したが、それで筆界は特定された。隣地の越境部分について今後どうするかという協議は残っているものの、安心して新築に踏み切った。この制度がなければ、本来自分の土地で受け継がれるべき息子さんの店舗併用住宅を建築することができず、次の世代まで問題を抱えたたままでいたかもしれない。
商店街の抱える問題として人(後継者)の問題がよくあげられるが、場所(境界)の問題に悩みを抱えているケースも少なからずある。筆界特定制度が旧来からの商店街の活性化につながることを期待したい。
田中不動産鑑定
不動産鑑定士 田中 計機
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)