歴史と地価との関わり(2)―千葉県市川市-アソート綜合事務所 /樋口 勝彦
前回述べた如く、市川市の住宅地は「市川地区」「八幡地区」「中山地区」「行徳地区」に分けられる。市川市には文化人も多く在住し、「八幡地区」は永井荷風、「中山地区」は東山魁夷ゆかりの地である。各地区の代表的な平成28年地価公示地は、「市川地区」市川-35(菅野1丁目)331千円/㎡、「八幡地区」市川-34(八幡4丁目)316千円/㎡、「中山地区」市川-11(中山2丁目)213千円/㎡、「行徳地区」市川-33(福栄1丁目)255千円/㎡等が挙げられ、「市川」と「八幡」、「中山」と「行徳」とで拮抗している。
商業地としては「市川駅周辺」と「八幡駅周辺」が挙げられるが、その繁華性は低く、日常の買い物以外は都心に出かける傾向にある。両駅を起点とする商業地の背後地の特徴は、「市川駅周辺」はJR総武快速線が停車し、旧陸軍の国府台連隊の跡地を利用した学校群・病院・スポーツ施設を中心とした生活密着型地域である点、「八幡駅周辺」は市役所を中心とした行政の中心地域としての性格を持つ点である。地価公示における両駅前地点の価格設定については、従来よりその優劣につき種々議論がなされてきたが、現在の地価公示価格は、市川5-4(八幡2丁目)1,110千円/㎡、市川5-10(市川1丁目)916千円/㎡等となっている。
工業地としては、東京湾に接する市川市の南側が船橋市・千葉市へと続く湾岸工業地帯の一翼を担っている。近時は東京都心と成田空港の中間に位置する立地特性から、「流通の拠点」として脚光を浴びている。従来は工業専用地域の用途地域指定から製造工場が多く立地していたが、平成20年頃から一定の条件を満たす大型画地(道路10m以上、間口80m以上、規模1万㎡程度)については、プロロジス等の大型物流倉庫用地としての取引が増え、その取引価格は従来の土地価格の実に3倍以上となった。そのため、地価公示での価格設定時には大型物流倉庫用地の見学も実施、種々議論を尽くしたが、結果的にはその土地の立地・規模等から工業地内の二重価格設定とならざるを得なかった。現在の地価公示価格は、市川9-1(塩浜3丁目)132千円/㎡等である。
また、「梨」の特産地である市川には梨畑が多く、市街化調整区域にも広く指定されている。現在の地価公示価格は、市川-49(柏井町)50.8千円/㎡である。江戸中期に何か特産品をと栽培されたのが梨であり、その後江戸の名産品となり今日に至っている。
歴史的・文化的な資産が育まれてきた市川市に、ぜひ足を運んでいただきたい。
アソート綜合事務所
不動産鑑定士 樋口 勝彦
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)
TAGS: アソート綜合事務所・市川市・樋口勝彦・歴史と地価との関わり | 2016年9月20日