年の初めに考える家族間の信託 － 鑑定法人エイ･スクエア／澁井和夫

新年明けましておめでとうございます。鑑定法人エイ・スクエアも一つ歳を取り、数えで17歳になりました。

昨年は、「家族の信託」が多くの人の興味を誘い、信託の新しい波が全国に伝わったと思います。この背景には、超高齢社会の進展があることは間違いありません。老老介護という言葉がありますが、財産の管理運用の世界でも、同様なことが起こり始めています。賃貸アパートの家賃収入で老後のゆとりを確保する一方、貸家建付地、賃貸事業用小規模宅地の評価減を活用した相続税対策を企図したものの、必要十分なメンテナンスが疎かにされた結果、せっかくの資産が老朽化し、市場性を失ってしまった例が多数見られます。次世代に受け継がれる時には、手の付けようがなく、自らも介護施設に入居するような事態に陥り、また、引き継ぐ方も高齢化して、事業継続意欲が乏しくなっている場合です。せっかくの不動産資産が重荷になって、悩みだけが残ることになります。

かつて不動産は親から子へ継承されていくものであり、親子は一か所に同居し、家族の団欒を形作っていましたが、核家族化が進み、二世代が一緒に暮らしていた地方や都市近郊の住宅は、老夫婦のみの世帯となり、広すぎるばかりか高齢者には住みにくい古家になっています。やがて、老夫婦は高齢者向け施設に入居する道を歩みますが、残された古家は子に継承されず、空家になり、これも社会問題化するに至りました。このような状況になる前に、経済合理的な手当てをしておかないと、社会的な損失（ミスマッチング）が増えてしまいます。

本来、社会を支える基礎単位であった家族がしっかりしないといけないことです。「家族の信託」は、不動産資産の承継の面で有用な一つのツールです。家族の信託では、信託財産の元本と果実を受け取る権利＝受益権を親に残しながら、信託財産の管理運用の担い手を次世代の子が引き受ける制度です。親世代が意思能力や身体能力に衰えを感じ、不動産資産の管理を持て余す状態に陥ったとき、相続を待たず＜信託により所有権を次世代に移転＞し、次世代が管理の当事者となって、不動産資産の管理・運用・処分を執行していくことにより、資産の劣化を防止し、資産と家族のミスマッチングによる損失をいち早く是正するのです。筆者のコンサル経験では、親が介護施設に入所する時点が信託をする“潮時”ではないかと考えます。長寿なればこそ、信託活用による資産の次世代への円滑な継承が望まれます。「家族の信託」の普及は超高齢社会の抱える問題を解決する一つの有力な手段です。

TAGS: 不動産資産・信託財産・家族信託・澁井和夫・鑑定法人エイ･スクエア | 2016年1月20日