家族信託を利用した2次・3次相続対策 - 長嶋不動産鑑定事務所/土師一弘
今回は、家族信託を利用することによって、1次相続だけではなく、2次・3次相続にわたって自分の財産を意中の後継者に引き継ぐことが可能となることについてお話しします。
- 一.相談内容
- A(相談者・65才)と妻B(63才)との間には子どもがいません。Aの両親は既に他界し、弟C(62才)がいます。この状態でAが死亡した場合の法定相続分は、Bが4分の3、Cが4分の1となります。Aは親から相続した不動産(自宅、貸ビル)を所有しており、Bが生きている間はBに所有して貰いたいが、最終的には弟Cの子D(甥・ 34才)に不動産を渡したいと思っています。
- 二.何もしなかった場合
- 認知症などでAの判断能力が喪失した場合には、不動産の管理、売却処分、大規模修繕、建替え等ができなくなります。また、遺言を作っていない場合は、誰が何を相続するかを遺産分割協議でまとめる必要があり、相続争いに発展するリスクがあります。更に、遺産分割によりAの不動産がBの所有となると、Bに相続が発生すればその不動産はBの親族に渡ってしまい、Aの意思に反することになります。
- 三.後見制度を使った場合
- 認知症などでAが判断能力を喪失した場合、Aに資産があるため、通常、親族は成年後見人になれず、弁護士、司法書士等の専門家が成年後見人になります。この場合、不動産の現状維持のための支出しか認めらなくなる可能性が高く、柔軟な財産管理ができなくなります。例えば、貸ビルの建替え、大規模修繕、売却等をすることができなくなる可能性が極めて高くなります。また、成年後見人に支払う費用(少なくとも月2~3万円以上)も必要となります。任意後見制度を利用し、妻Bが任意後見人になったとしても任意後見の発効後、任意後見監督人が選任されるため柔軟な財産管理ができなくなるのは同じです。
- 四.遺言を使った場合
- 夫婦A・Bで互いに遺言を書き合い、A亡き後はB、B亡き後はDというように財産承継先を指定することができます。但し、遺言はいつでも撤回できるため、将来、BとDの関係が悪化した場合などは、撤回される可能性もあります。また、遺言には生前の財産管理機能がないため、認知症対策にはなりません。
- 五.家族信託を使った場合
- A(相談者)を委託者、C(弟)を受託者、そして利益(家賃)を受け取る権利はAとするため受益者はAとする信託契約を締結します。そして、A亡き後はB、B亡き後はDというように財産承継先を指定することによって、Aの意思を反映した円滑な遺産相続が可能となります。
長嶋不動産鑑定事務所
不動産鑑定士 土師 一弘
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)