公益法人制度改革と鑑定評価 ― 鑑定法人エイ・スクエア/畠山文三
公益法人制度は明治 29 年の民法制定時に創設されて以来、100 年以上も抜本改革されずに来ました。そのため、全国に約2万5千あるといわれる公益法人の中には、世の中の変化に対応できなくなっているケースも散見される等、“制度疲労”が顕在化しています。平成 20 年 12 月に「新公益法人制度」が施行されたことにより、新たな社団や財団の設立に向けて、既に約40%の旧公益法人が移行申請済で、うち約8,700法人が手続きを完了しています。申請期限は平成25年11月末ですので、これから申請の最終段階に入っていくものと思われます。
こうした中、「鑑定評価」との関わりは、一般社団法人・公益法人への移行に際し発生しています。すなわち、これらの法人への移行認可を受けるには、長年にわたる寄付金や税制優遇により公益法人が蓄積してきた財産を、移行後も引き続き公益目的事業に支出する計画(公益目的支出計画)の作成が必須です。
公益目的財産のうち、土地又は土地の上に存する権利、土地および建物、建物を含む長期継続事業資産等については時価評価を行いますが、評価の方法は固定資産税評価額や不動産鑑定士が鑑定した価額等が考えられるとされています。
こうした前提で不動産鑑定士が算定した「時価」の中には、固定資産税評価額より下回るケースがあります。公益目的用の不動産による事業は、一般的に収益性が低いためです。それを反映した時価であれば公益目的財産額が低く抑えられ、ひいては公益目的支出計画の早期終了につながり、一般法人としての自主的な運営開始が早まります。
移行申請がスタートとして間もない平成21年~22年頃には、公益社団法人・財団法人への移行認定申請が多かったのですが、最近では一般社団法人・財団法人への移行認可申請が増えています。埼玉県が昨年 6 月に実施したアンケートによると、一般社団・財団法人への移行を目指す理由として、「一般法人でも非営利型法人であれば一定の税制優遇があり、支障がない」「(公益社団・財団法人への)移行時、また移行後においても公益認定の基準を満たすことが困難」「自由な立場で、公益的な事業はもとより様々な事業を実施していきたい」「行政の監督を受けずに活動したい」などとあり、“本音”も窺えます。
ただ、現実には「公益目的支出計画」の完了までに数十年もかかるような計画も作成されており、公益法人制度改革が目指す「民による公益の増進」の実を上げるのを次世代に繰り延べないためにも、「時価評価」の方法も含めた十分な検討が必要です。
(株)鑑定法人エイ・スクエア
不動産鑑定士 畠山 文三
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)
TAGS: 公益法人制度・公益目的支出計画・新公益法人制度・畠山文三・鑑定法人エイ・スクエア・鑑定評価 | 2012年8月20日