「走馬看花」ではない鑑定評価を目指して - アソート綜合事務所/殿原玲子
早いもので不動産鑑定に携わるようになって20年余りになる。鑑定評価とは「不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額をもって表示する」ことであり、鑑定評価の質を左右する資料収集の重要性は今も昔も変わらない。しかしながら、鑑定作業の方法は随分と変化した。以前は謄本の確認は管轄の法務局に赴き、バインダー式台帳の登記簿を閲覧、公図はマイラーと呼ばれるフィルムを自分でコピーしていた。それが現在ではインターネットの「登記情報提供サービス」を利用して、事務所にいながら全国の不動産の全部事項証明書や公図写等を取得することができる。また、評価書添付資料は、公図コピー等の汚れを修正ペンで消したり、住宅地図を貼りあわせるなど手作業で作成していたものだが、今ではPCソフトで簡単・綺麗に加工できる。
役所調査に関しても、現地役所に行かずともHPで用途地域や道路幅員を調べられる所が増えてきた。官報を保存していた公示地点の地価も、現在では国土交通省HP「土地総合情報ライブラリー」にて昭和45年からの分が検索可能であり、相続税路線価もHPで過去7年分が閲覧できる。このほかにもGoogleマップで全国各地の不動産の概要が把握できるし、現地実査ではカーナビのお蔭で道に迷うことも少なくなった。
このように、コンピューター化やインターネットの普及により、鑑定作業は便利且つ情報量が増えたが、良いことばかりでもない。評価書の記載事項や適用手法が増えたため、一つの案件に要する作業時間や負担はむしろ増加している。またPC作業が増えた分、PCの知識や情報管理の徹底が要求されるようになった。さらに実査の事前準備が充実した反面、現地滞在期間の短縮が可能となり、急ぎの案件や日帰り案件が増加、現地の名物・名産品(人によっては銘酒)をゆっくり味わう時間が少なくなったのは残念なことだ。
馬上から花を見ても、花のことは理解できないことを「走馬看花」という。中国・唐の時代の詩の一節だが、物事をおおまかにしか捉えず、理解が浅いことをいうようになった。便利かつ情報が簡単に入手できる時代、「効率性」の落とし穴にはまらず、「花」は「馬」から下りてしっかり見るべく留意している。
今後はAI(人口知能)の進歩により鑑定業界もさらなる変化が求められるだろう。不動産鑑定評価制度の見直しも検討されているようだが、いつの時代も社会に必要とされる存在であるよう自己研鑽を積んでいきたい。
アソート綜合事務所
不動産鑑定士 殿原 玲子
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)