昔は良かった － 森島不動産コンサルタンツ／森島義博

最近、歳を取ったせいか「昔は良かった」と思うことが多い。人の迷惑を顧みずどこでもタバコは自由に吸えたし（昔の映画を見ればよく分かる）、「男らしさ」や「女らしさ」について語ることもできた。レジ袋はタダでもらえたし、インフルエンザはあったけどコロナはなくてマスクを気にすることもなかった。ビルだってそうだ。比較的出入りが自由で、用がなくても気軽にビルに入り込み、取引先の部署を訪ねて知り合いに声をかけたりしていたものだ。

今の近代的なビルはエントランスに入ると無機質な広い空間に駅の改札口のようなものが並んでいて、用のない者の進入をがっちり阻んでいる。

そう言えば昔、外国人投資家に東京丸の内のビルを自信をもって案内したところ、「六本木アークヒルズ」の方が評価が高かったことに驚いた。あの頃からビルの「形」は現在のようになることを暗示していたのだなぁ。事務所の中にだって自分の机がしっかりあって、そのスペースに私物も公物もごっちゃに置いて優雅なスペースを確保することができた。

今は自分の机もなく、フリースペースなどと言って、空いている場所を見つけて仕事をする。自分のパソコンを常に持ち歩かなくてはならないから、カバンがリュックサックに変わった。スーツのシワを気にしてダンディズムを気取っていたのは昔のことだ。

さて、最近のビルを見るのにSDGs やESGと言う言葉を無視して見ることができなくなっている。SDGsとは、2015年9月に開催された国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」のことで、その英文の略称。17のゴール・169のターゲットから構成され、国を挙げて推進しようとしている。高邁な理念が語られ、ビジネス街では赤い丸いバッジを付けた人が目立つようになった。

ESGとは、「環境」「社会」「ガバナンス」を意識した取り組みのこと。SDGsが＜目標＞で、その目標を達成するための＜手段＞がESGであると考えてよい。気候変動問題や人権問題などの世界的な社会課題が顕在化している今、長期的成長を目指す上で重視すべきESGの観点での配慮ができていない企業やビルは、投資家などから価値毀損のリスクを抱えているとみなされる。

ESGを備えているビルは、そうでないビルよりも0.3％程度賃料が高いとも言われているので、無視はできない。しかし、腑に落ちないからストレス。きれいごとで胡散臭いと感じるのは私だけであろうか。そういうことを気にしなくてよかった昔はやっぱり良かったなぁ。

TAGS: ESG・SDGs・フリースペース・価値毀損のリスク・六本木アークヒルズ・昔は良かった・森島不動産コンサルタンツ・森島義博 | 2022年10月20日