高速道路の功罪 - 田中不動産鑑定/田中計機
兵庫県の中部に位置する丹波市にて不動産の鑑定業を営んでいる。兵庫県は南は瀬戸内海、北は日本海に面する広大な面積を有する県であるが、今や中北部においても高速道路の整備が進み、神戸市中心部から日本海側まで車で2時間半程度で移動できるようになった。
田舎における高速道路の整備効果としては、都心部への買物や通勤・通学が短時間で可能になることはもとより、農水産物等を都会の市場へ迅速に輸送できること、工場や物流施設の立地促進が図れること、観光客の増加が期待されること等であろう。
近年では、災害時に道路交通手段が確保できるという重要な役割もクローズアップされている。高速道路の整備によるこれらの効果は、地価の上昇をもたらす要因になると考えられてきた。
しかし、一方では、高速道路ができたことによって、地域社会では通過交通量のみ多くなり、商業の衰退を招いたというマイナス要素も存在する。幹線道路沿いの交通量が減り、駅前商店街に加え、郊外の商業施設も衰退している地域が少なからず見受けられる。
丹波市郊外にある「道の駅あおがき」は、北近畿豊岡自動車道が開通する前は地域の特産品販売の窓口として機能していたが、高速道路が開通したことで、賑わいが薄れたという。
又、名の知られた温泉地である「湯村温泉」では、観光入込み客数は概ね横ばいで推移しているが、入込客の内訳をみると、日帰り客は増加し、宿泊客は減少傾向にある。その宿泊客にしても、食事がバイキング形式の安価な料金で泊まれるホテルの進出などが響き、客単価は下がり気味である。
移住者はどうか?田舎で空き家の増加が問題になっている中、丹波市においては、都心部のリタイアした高齢者が空き家を購入するケースが徐々に増えている。完全に移り住むでもなく、週末だけ当地で過ごす『プチ田舎暮らし』を志向する人たちだ。
田舎の一軒家で音楽を思い切り楽しむというライフスタイルの方が購入するケースもある。これは、高速道路を利用し、都会から田舎への移動が迅速に行えるようになったからであり、高速道路が発達したことによって、空き家の活用に結びついたケースである。
兵庫県地価調査によると、ここ数年、湯村温泉地内の基準地の価格は年7%程度の下落基調で推移している。商業地においても、公示地価は軒並み下落基調だ。その背景を考えると、人口の減少という構造的な要因も勿論あるが、「高速道路の整備」も地価下落には少なからず影響しているのではないだろうか。
今後、ライフスタイルの変化により高速道路への投資が様々な面で活きてくることに期待したい。
田中不動産鑑定
不動産鑑定士 田中 計機
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)
TAGS: 地方活性化・田中不動産鑑定・田中計機・田舎の空き家増加問題・高速道路の功罪 | 2020年3月20日