地価上昇を支えるインバウンド需要(2) - 鑑定法人エイ・スクエア/畠山文三
最近、新聞が引用した「言論NPO」の日中両国の相互理解に関する世論調査の結果を読んで、意外な感がした。中国に「良くない」印象を持つ日本人の割合は86.3%で高止まりが続いているのに対し、日本に「良い」印象を持つ中国人の割合は42.2%と、調査開始以来の13年間で最も高くなったという。記事のポイントは、「日本を訪れた中国人の7割以上が「良い」と評価しており、訪日客の増加が寄与した。」という辺りにある。
韓国はどうか。2017年時点で訪日旅行客が最も多いのは中国の735万人だが、韓国は714万人と肉薄している。前年より4割も増えており、これにも意外性を感じる。
訪日外国人客は、昨年は2,869万人と3,000万人の大台一歩手前のところまで来た。札幌や仙台、広島、福岡などの中核都市では訪日客の増加を見込んだ店舗やホテルの建設が進み、本年7月1日時点の基準地価では、これら4市の商業地の地価は前年比9.2%も上昇した。しかし、訪日外国人の体験の場は、今や地方の中小都市にまで広がっている。
そうした中、今年は災害が多発し、特に9月に上陸した台風21号では、関西国際空港が一時全面閉鎖となり、北海道の地震では新千歳空港が停電でマヒした。そのため、9月の訪日外国人は5年8か月ぶりに減少に転じた。
こうした災害で明らかになったのは、「想定外」の事象に対しては日本を代表する国際空港、大規模発電所といえども脆弱で、体制や施設が不十分ということである。緊急時に際しては、日本人、外国人を問わず適切な情報伝達がスピーディになされれば、大いに助かるのだが、今回は現状把握に手間取ったこともあり、うまくいかなかった。確かに外国人、それも多様な言語を母国語とする地理不案内の旅行客に対して、情報伝達や指示を迅速かつ正確に行うということはかなりハードルが高い。
AI技術等が進歩し、翻訳の世界にも革新的な機器が出現しつつあるが、現状、日本の情報通信技術やリスクメネジメントの水準は、訪日外国人客のニーズに追いついていないようだ。彼らはSNSで情報を発信し、それは口コミで瞬く間に広がる。旅行客ばかりでなく、日本事情に通じた在留外国人がインフルエンサーとして日々個性的な情報を発信し、その影響力は大きい。
外国人旅行客(それは時に日本人高齢者にもあてはまる)が日本に来て何に困っているのか、そうした媒体を通じて情報を把握・分析すればかなり見えてくるので、そこから解決策を講じる方が効率的だ。そうした積み重ねにより、日本に「良い」印象を持つ外国人が増えることの将来的な効果は計り知れない。
鑑定法人エイ・スクエア
不動産鑑定士・全国通訳案内士(中国語) 畠山文三
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)
TAGS: インバウンド・畠山文三・訪日外国人・鑑定法人エイ・スクエア | 2018年11月20日