不動産には畏敬の念を持って-森島不動産コンサルタンツ /森島 義博
初めて不動産の仕事を担当したとき、まず現地調査の研修から始めました。旧林野庁やJRなどの退職者で不動産調査専門の人たちが職場には居て、その方々に先生になってもらいました。私の先生になってくれた人は旧道路公団を退職した人でした。先生は現地調査に行くとき、私に「塩を小袋に入れて持って来るように!」と指示しました。「塩?」なぜだか分からないまま、塩を入れたビニール袋を持っていきました。先生は現地に着くと、塩を一つまみ撒いてから土地に踏み込みました。「なぜそういうことをするのか?」と問うと、「土地には長い歴史があり、かつてどのようなことがあったのか分からない。土地には歴史に基づく霊が憑いているから塩を撒くのだ。」とおっしゃいました。私はその話を聞いて、まったくの迷信だとは思えませんでした。土地を対象として仕事をする人間は、土地に対して畏敬の念を持って臨むべきだと教えられたように思いました。
そして本格的に不動産の仕事をし始めると、世の中には「占い」や「風水」、「家相」などに高い関心を持っているお客様が多いことに驚きました。場所や面積や金額がご希望にぴったりの不動産を探して自信満々にお客様にお見せしたところ、「地相が悪い!」と断られたこともありました。「地相が悪い」などと漠然と言われると、どのような物件を探せばよいのか分からなくなってしまいます。そこで、お客様のおっしゃることを少しでも理解しようと風水などの本を買い込んで一生懸命勉強をしました。そんなことを繰り返しながら40年以上不動産の仕事に携わってきますと、「地相」の良し悪しと言うことは実際あるのではないかと思うようになりました。テナントが居つかない店舗があります。周辺の店舗は順調なのに商売がうまくいかない物件です。「地相」が悪いとしか思えません。住宅で言えば、幸せに暮らした人が住んでいた家は、次に住む人も幸せになっている率が高いように思えます。
「家相」にもずいぶん泣かされました。「家相」に一定の合理性が認められることは良く知られてきています。風水と同じく、そのルーツとなる中国思想まで遡っておくと、お客様にいろいろな助言や説明(言い訳?)をすることができます。
「地相」「家相」など、一般的には<迷信>と言われているものですが、私はまったく無視することはできなくなってしまいました。
不動産には畏敬の念を持って接するべし… 昨今の不動産の金融商品化などとは対極にある感覚ですけどね。
森島不動産コンサルタンツ
不動産鑑定士 森島 義博
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)
TAGS: 森島不動産コンサルタンツ・森島義博 | 2016年6月20日