中古建物評価の新手法 - 株式会社加門鑑定事務所 / 代表取締役 岩崎 隆
不動産鑑定士が評価する対象は主に土地及び複合不動産(土地建物)が多いが、近年は需要の多様化により建物単独の鑑定評価が注目されている。
中古建物を時価評価して取引価格や融資額の指標とし、中古建物市場の円滑化、活性化を図ろうという趣旨である。これはごく基本的な需要なのだが、今更のように感じるのはこれまでのわが国の建物に対する社会の認識がスクラップ&ビルド方式の上に立っており、建物を補修しながら数十年単位の長期間にわたって使用するという発想に乏しかったためかもしれない。
1.中古建物評価の新手法
(1) 3手法の特徴と課題
建物の鑑定評価も他の不動産と同様に3手法が基本になる。
①積算価格
建物の個別の状況を具体的説明できるため、説得力があり関係者の理解を得やすい。難点は新築時からの経過年数が大きくなるに従い、市場価値との乖離が生じやすく、市場性を反映しにくいという点にある。
②比準価格
建物のみが単独に取引されることは少なく、多くはその敷地である土地と一体になって取引される。したがって、建物の取引価格を分析するには配分法を用いて建物価格を取りだす必要がある。
③収益価格
建物を賃貸した場合にどれだけの収益性が実現できるかという観点から求める価格である。土地建物一体の純収益をそれぞれに配分して査定する。よって賃貸を前提にしない一般の戸建住宅には適用が困難である。
(2) 不動産鑑定業界の対応
現在、検討が進められている新手法は積算価格をベースにし、その難点である市場性をより適格に反映しようという考え方である。
①これまでの鑑定評価
積算価格=再調達原価-減価修正額(経年減価+観察減価)
②新手法による鑑定評価
評価手法の基本的なスキームは①と変わらないのだが、個々の緒元をブレークダウンメソッド方式により詳細に分析していく所に特徴がある。
減価修正額=(再調達原価-観察減価)×減価率+観察減価(補修費)
ⅰ)再調達原価の精緻化
実際の契約事例をもとに分析したJBCI(ジャパン・ビルディング・コスト・インフォメーション)のデータを採用し、用途、規模、構造さらに地域別に建物の再調達原価を査定する。
ⅱ)経年減価の現実化
建物の構成割合に基づいて躯体・設備・仕上の個々の経済的耐用年数を分析し、経年減価の現実性を高くする。
ⅲ)観察減価の具体化
現地調査の結果を基に、市場に出すために必要な補修費を個別に査定し、その金額を観察減価額とする。
すなわち、新築時の再調達原価との差額部分を具体的に査定し、市場の理解を得やすくしている。
2.建物評価の課題と活用
不動産鑑定士が建物を詳細に分析する姿勢で上記の鑑定評価を行うようになれば市場関係者の信頼を得ることは可能であり、さらに、行政機関や金融機関の理解を得て、経済社会の支持を広げていく必要がある。この手法を定着させることにより、先にあげた取引価格の指標や融資額の指標とするケースの他に、法人税法による建物の減価償却、土地・建物一体取引から建物価格を査定して消費税額を算定するケース、また、相続税及び固定資産税における建物価格の査定等にその効果が期待できると考える。
株式会社加門鑑定事務所
代表取締役 岩崎 隆
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)