高齢化社会を睨んだオフィスの用途転換-鑑定法人エイ・スクエア/畠山文三
今年の新成人は全国で124万人とのことで、「団塊の世代」の最後の年-1970年の新成人247万人の丁度半数に当たる。ここまで少子化が進んだことに愕然とする一方、「団塊の世代」が65歳を迎え、ビジネスの現場からほぼ完全にリタイアするまであと3年といわれると、高齢化社会の到来に現実味を感じる。
退職者が増加する反面、新卒者は大幅に減り、更には円高による国内産業の空洞化で“社会減”も進行している。あれやこれや考えると、働くスペースはこれから少なくて済むはずだが、現実の動きはその逆だ。東京ではオフィスビルの新規供給が続き、「2015年以降問題」より先に「2012年問題」が控えている。都内を歩くと、各所で建築中や竣工間近の大型ビルが目につく。新築だからテナント集めには苦労しないと言っていたのは、過去の話になった。
不動産鑑定の世界では、評価人はまずその不動産が「最有効使用の状態」にあるかどかを判定する。最有効使用とは「現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用である」とされる。古いビルが新しいビルに建て替わるのは「最高最善の使用」を目指した結果であるが、空室が埋まらず所期の収益が上がらないのでは、最有効使用とは言えなくなる。
しかし、築浅の大型ビルは耐震性能や非常時対応設備に優れ、環境にも配慮したビルが増えていることから、適正賃料に収束することでいずれは「最有効使用の状態」になるであろう。問題は陳腐化・老朽化したビルだ。われも負けじとばかりに同用途での建て替えに走るのはやめて、オフィススペースの需要減を睨んだ用途の転換を模索してみたらどうだろう。
充実した都市部のインフラ設備を有効に活用するためにも、都心立地の住宅や介護施設はもちろんのこと、働く母親に便利な託児施設、更には付加価値の高い製品を作る工場ビル、野菜工場などなど都市部での新たな最有効使用の方法はアイデアを出せばいくらでもあるはずだ。
もちろん、これらの施設での収益性は高いものではないだろうが、既存のオフィスビルの収益性も需給関係から長期的にはそう高くはならないと思われ、工夫次第でチャンスはある。国や地方自治体も規制の緩和や周辺施設の整備、税制、補助金などで支援し誘導して欲しい。アイデア施設での高齢者の再雇用にもつながるのなら、国などにとってもメリットは大きいと思われる。
鑑定法人エイ・スクエア
不動産鑑定士 畠山 文三
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)
TAGS: 2012年問題・用途転換・畠山文三・鑑定法人エイ・スクエア・高齢化社会 | 2012年2月20日