家の作りは夏を旨とすべし - 鑑定法人エイ・スクエア/畠山文三
今年の夏は「危険な暑さ」という言葉を聞くことが多かった。「猛暑」「酷暑」を超えた暑さが6月初めから続き、丁度コロナの第七波とも重なったため、その危険度たるや身も心も消耗させるようなレベルであった。
暑い夏の住まいは、どうすれば快適に過ごせるか? 兼好法師は「徒然草」の中で「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。」と書いている。夏は風通しの良い家に住むと日夜とも快適に過ごせる。湿度の高い日本、当時の食生活においては、かびの発生や食物の腐敗が少しでも防げることを考えると、「風通し」は大事なことであったと思われる。しかし、現代では最高気温が35度Cを超え、夜でも30度を下回らない日が延々と続く。風通しを良くしようとしても、隣家のクーラー室外機を含めた熱風が入ってきてそれどころではない。家の断熱性能を上げて空調効果を高めることを旨とした「家の作り」が重要になってくる。
断熱効果という観点からは、「窓の作り」にももっと注意が注がれるべきだ。タワーマンションに限らず、戸建住宅でも広くて高い窓は開放感があって見た目も美しいが、太陽光のコントロールができていないと夏は“灼熱地獄”になってしまう。以前と比べ、電気代が気になるこの時代、冷房をフルに動かすのは却って時代遅れともいえる。一方、事務所ビルでは、地震対策ができたこともあり、ガラスカーテンウオール外装のしゃれたビルが多くなっている。ガラスの断熱性能にもよるが、西面の部屋は空調をフル回転させても夕方の室温が下がらない夏の日があり、ビル管理会社では対応に苦慮したと聞く。
鑑定評価においては、標準住宅地の場合、「東向き」の立地を1.00とすると、「南向」きは1.02、「西向き」は0.98、「北向き」は0.96という格差で比準するのが基本である。一方、商業地の場合は、「方位」に関する格差項目はない。これからもわかるとおり、住宅地においては南向き信仰は根強いものがあるが、商業地の場合は方位は価格形成要因に影響を与えるとは考えられていない。しかし、これからは「北」へも目を向け、住宅では夏(北)と冬(南)で生活の「重心」を変えられるようなフレキシブルな設計が考えられないものか。また、一部の高層ビルでは「北向き」の部屋の賃料が「南向き」や「西向き」の部屋より高くてもよいのではないかと思う。
温暖化の進行は、家の作りにも様々な観点からの示唆を与えてくれる。進行を当面は止められない以上、従来のやり方を変えるような家作り対策も必要だ。
鑑定法人エイ・スクエア
不動産鑑定士 畠山 文三
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)
TAGS: 兼好法師・夏をむねとすべし・家の断熱効果・徒然草・最高気温35度・畠山文三・窓の作り・鑑定法人エイ・スクエア・鑑定評価 | 2022年9月20日