地価上昇を支えるインバウンド需要 - 鑑定法人エイ・スクエア/畠山文三
9月18日に国土交通省から発表された本年7月1日時点での全国の基準地価の報道で、最も焦点が当たっていた言葉は「訪日外国人」ではなかっただろうか。近年、訪日客の需要を見込んで地方でも店舗やホテルの建設が進み、札幌や仙台、広島、福岡などの中核都市では、商業地の地価は昨年比9.2%も上昇した。商業地の地価が上がるということは、そうした土地の収益力の向上を反映していることにほかならない。
日本を訪れる外国人客(インバウンド)は長年低迷していたが、2002年に5百万人を突破してからは、東日本大震災の年に落ち込んだ以外は急伸を続けており、2013年に1千万人、昨年は2千869万人と3千万人の大台一歩手前のところまで来ている。背景には、為替の円安傾向に加え、経済発展により所得が増加した東アジア諸国の中間層が格安航空会社(LCC)を利用して手軽に日本旅行を楽しめるようになったことが大きい。そうした人々が日本国内で消費する金額は、今や4兆円規模になっており、政府は2020年に訪日外国人4千万人、消費額8兆円の目標を掲げる。国内消費が伸び悩む中、インバウンド需要=観光関連産業は大きな「成長産業」なのである。
筆者は、不動産鑑定の仕事で国内各地を巡りながら、全国通訳案内士としての視点から、増加する外国人観光客(特に中華圏からの)を“観察”してきたが、近年は一時期の突出性が薄れ、日本社会にある程度溶け込んできたように感じる。団体客一辺倒ではなく、個人・家族での旅行が増えており、その行き先や興味の対象も多様化している。今や、新宿の超高層ビルや新幹線を見ても、母国の光景と余り変わるところはなく、興味は乏しい。
かつて30年以上も前のこと、中国人の友人に日本で感動したことを訊ねたことがある。彼は、成田空港からリムジンバスに乗って都内へ向かった際、滑るようにバスが走る道路の心地よさ、レストランで食事をした際、客の動きを見ていないようで見ているウエイターの動きをまず挙げた。かの国の道路舗装の状態が最近はどうか定かではないが、ウエイターはやはり今も「見ていない」のではなかろうか… 。
寸分も疎かにしない丁寧な仕事ぶり、マニュアルでは表せない接客のコツ…。こうした日本人の得意ワザがこの社会に根付いている限り、公共の場の清潔感やおいしい食べ物、旬の果物などとも相まって、インバウンドの期待を裏切る国にはならないだろう。しかし、思わぬところで落とし穴はあるもの。次回(11月5日号)では課題について触れたい。
鑑定法人エイ・スクエア
不動産鑑定士・全国通訳案内士(中国語) 畠山文三
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載(許諾済)
TAGS: インバウンド・地価上昇・畠山文三・鑑定法人エイ・スクエア | 2018年10月20日