人生の分かれ道 － 岡本不動産鑑定所／岡本憲二
８月には６５歳を迎えますが、人生を８０年と仮定した場合、私の人生時計は間もなく午後７時半。残された時間は僅かとなりましたが、今夜は適当にチャンネルを回しながらテレビでも見て寝るか、それともじっくり本でも読むか、はたまた「夜の帝王」気取りだった若い頃の一時期を思い出し夜の街へでも繰り出すか、終着駅を見据えここが思案のしどころといったところですが、過ぎし日を振り返ってみると、あの時の先輩への対応が人生の大きな分かれ道だったようです。
某銀行の名古屋支店貸付係で仕事をしていた新婚ホヤホヤの私に、不動産係の先輩から声がかかりました。人事部へ不動産鑑定士受験希望者の報告を出す必要があるが、誰も希望者がいないので君の名前を書かせてもらいたいとの趣旨。その場はあまり深く考えず、その気もないのに先輩の顔を立てるくらいの軽い気持ちで承諾した約半年後の昭和５１年２月、東京不動産部勤務の人事異動が発令され、転勤先へ出勤した初日の夜から即、霞ヶ関の霞山会館で行われていた不動産鑑定士の受験講座に通うこととなりました。金融機関を選んだ以上、貸付業務等の本流業務に関わることを想定していた銀行員生活はこの一件で大きく転回し、爾来約３６年、それ以後の銀行員時代のみならず、鑑定業者に勤務した第二の宮仕え時代、自宅で細々と鑑定業を続けている今日まで、不動産業・不動産鑑定業界にどっぷりつかることに相成りましたが、当時はかかる人生を夢想だにしませんでした。
銀行入社時に描いた人生設計とは大分違う道程を歩むことになりましたが、これまで歩いてきた道には、今でもお付き合いいただいている不動産業を営む８０歳すぎのＳさんや兄同様のＴさんをはじめとする諸先輩・同僚との出会いや、土地信託を委託していただいたお客様なのに、私を息子のように可愛がってくれた今は亡きＧさん、Ｎさんとの出会いなど、折る指が尽きぬほど多くの忘れられない出会いがあり、何物にも代え難い貴重な財産を得ることとなりました。
これまでの人生を振り返れば、幾たびかの分かれ道に遭遇したものの、さほどの強い選択意思を持たなかったことへの忸怩たる想いがなくはありませんが、結果として歩んできた道で出会った人達やいろんな風景のひとつひとつに想いを馳せつつ、残された時間を我が人生の集大成とすべく燃え尽きるまで頑張ろうと意を新たにし、午後７時半を迎えようとしています。
夜は長いぞ、まだまだ寝るにはもったいない！
岡本不動産鑑定所
不動産鑑定士 岡本 憲二
株式会社ビル経営研究所の「週刊ビル経営」より転載（許諾済）